楽譜はどうやって選ぶの?

2019-10-07

このテーマに関しては様々な意見が飛び交っておりますね。
そして、これを論じた本も多く出版されているくらいですから、少なくともクラシック音楽に関わる全ての人にとって永遠の課題と言っても過言ではありません。
今回は、私なりの答えをシェアしたいと思っております。あくまで「私はこうやって選んでいる」というひとつの基準です。楽譜選びで迷っている方々にとっての参考になったら幸いです。

選び方①価格
皆さんのご自宅にある楽譜は、どのような理由で購入されたものであるか覚えていますか?同じ曲がいくつもの出版社から刊行されているのにも関わらず、なぜそれを選びましたか?

現代作品は高度な録音・印刷・通信技術のおかげで、オリジナルの譜面や最高水準の浄書を見たり手に入れたりすることが出来ます。
しかし、それらの技術や著作権法が未発達である時代のクラシック音楽(諸説あり)には、自筆譜の紛失・戦争や天災・一部の出版業者による違法な販売などによって、一体どの楽譜が信頼できるのかを知るのに大変苦労を要する作品が数多くあります。それはもう仕方のないことなのです。
歴史学や外国語、音楽に関わる学問を深く学んだ上でベストな出版社から楽譜を購入できれば、それはとても最高なことですが、そうもいかないのが現実です。そういった場合、どのような基準で楽譜を選べばよいのか。

最優先事項として挙げたいのが、

価格

単純ですか?いいえ、これが重要なのです。
不景気でなかなか給料があがらない皆さん(わたし含め)、価格が高いというのは死活問題ですよね。同じ曲でも、輸入楽譜よりも日本で出版された楽譜のほうが半値もしくはそれ以下で販売されているケースがあります。そのようなものを発見したら、迷わず日本の出版社を選びましょう。洒落た表紙の輸入楽譜を小脇に抱えている場合ではないのです。死活問題なのですから。
最近良く知られているのが、IMSLPという楽譜ダウンロードサイトです。著作権の切れたクラシックの楽譜を無料で閲覧・ダウンロードすることができます。同じ曲でも様々な版が所蔵されており、その数はなんと485,000冊(2019年9月15日現在)。とにかく価格を重視する方は、こちらを選択肢に入れましょう。

選び方②楽譜は見やすいか
価格は別に問題ではないという場合の最優先事項としては、

譜面の見やすさ

こちらもかなり重要な要素のひとつです。
出版社によって紙の色もインクの濃さも様々です。よく観察してみると、決して紙は真っ白ではないのです。インクも真っ黒ではないのです。
それだけではありません。同じ曲でも出版社によって使用するページ数が若干異なっていたり、ページの真ん中あたりで曲が完結していたりするものもあります。これは、1ページあたりの段数であったり、1段あたりの小節数が異なっていたりするためです。YAMAHAさんから出版されている月刊Pianoなどの雑誌ですと、解説や演奏のポイントが加えられている場合があるので、それも影響すると考えられます。
同じ価格帯でも見た目が随分違う場合がありますので、見やすさで選ぶのもひとつだと思います。

選び方③指使いやアーティキュレーションが書かれているか
ちょっと専門的になってきました。しかしこれも重要な要素です。
いわゆる原典版の場合、作曲家の意図していないことは全く記されていない場合が多く、曲によっては指使いも一切無いなんてこともよくあります。全く指使いの無い譜面に向き合っても、自分でオリジナルの指使いを編み出してサラサラと弾ければ問題ありません。しかしそうでなければ、例えるなら、レベル50のポケモンを連れてシロガネ山のレッドにバトルを挑むようなもの。特にバッハのフーガに関しては、レベル5のピカチュウだけでタケシのイワークに挑むようなもんです。即死です、ポケモンセンターに緊急搬送です。
無謀な挑戦はせず、指使いが記載されている楽譜を選びましょう。

また、アーティキュレーションが適度に書かれているのも重要な要素です。
校訂版の中には、過剰に追加されていたりペダルの表記がたくさん追加されていたりするものがあります。そのような版が批判されている時期がありましたし、今でもその声は止みません。
しかし、そのような道標が多少なりとも必要であることは確かです。まっさらな譜面に立ち向かうよりは安心感がありますし、同じフレーズでも様々な表現方法があると知ることが出来るので、そういう意味では非常に良い教材と言えます。
指使い然り、特に初めて触れる作曲家の作品を弾く場合、無謀な挑戦はおすすめしません。

選び方④楽曲の解説が載っているか
インターネットでどんな情報も手に入る時代です。音楽に関しても同じことがいえます。しかし詳細な楽曲の解説や、演奏のアドバイスまでもが記載されているWebサイトはそんなに無いと思います。楽譜の背表紙や解説の頭に解説者または編者の名前がしっかりと記載されている楽譜の場合は、わりと解説が充実している場合があります。

たとえば全音楽譜出版社から刊行されているプロコフィエフの『つかの間の幻影』の場合。プロコフィエフの生涯と作品・曲目解説は寺西基之さん、各曲の演奏のポイントは寺西昭子さんであることがわかります。解説だけで、6ページも割いています。この1冊で作曲家と作品のことだけでなく、作曲された背景や演奏時に気をつけるべきポイントを把握することができます。
同じく全音楽譜出版社から刊行されているバッハの『6つのパルティータ』。バッハ研究の大家である市田儀一郎さんによる楽曲の解説(というか解釈)と演奏のポイントだけで32ページ割いています。組曲が6曲掲載されているから全41曲であるわけで確かにページ数が膨らむのもうなずけますが、全曲の解釈と演奏のポイントを読むことが出来るのは大変貴重なことです。

また、ヤマハミュージックメディアから刊行されている『ハイドン 色とりどりの曲集〜やさしい小品たち〜』は、非常に解説部分が丁寧です。
・この曲集について
・ハイドンとその時代について
・演奏に際しての注意点
・曲目解説と演奏の手引き
と分かれており、ハイドンの音楽に初めて触れる人も抵抗なく入っていく事ができる構成になっています。ハイドンが生きた時代の楽器と現代の楽器との違い、演奏法の違いなどが細かく記載されているので、解説の全体は6ページに収まっているものの、かなり広範囲の知識を得ることが出来ます。
多少値が張る場合もありますが、これだけの情報を楽譜1冊で知ることが出来ると思えば安いのではないでしょうか。

選び方⑤底本が解説に記載されているか
かなり専門的になってきました。
「底本」とは、翻訳・校訂などのもとにした本のことです。底本の紹介は、曲の解説よりも先に記載されている場合が多いです。今手にしている楽譜は、どこの出版社から誰の校訂で何年に出版された楽譜をもとにしているか、ものによっては、何ページの何段目からどこまでを参考にしたかが記載されている場合もあります。

前項で紹介した、ヤマハミュージックメディアから刊行されている『ハイドン 色とりどりの曲集〜やさしい小品たち〜』の「演奏に際しての注意点」では、
・ピアノオリジナル曲は、ヘンレ原典版とウィーン原典版を底本にしている
・編曲楽曲は、ユニヴァーサル版(校訂版)を底本にしている
・編曲版のアーティキュレーションは、原曲をもとに追加されている
・ピアノの奏法と合わない場合は、古典派の演奏の法則にしたがって、校訂者による校訂が含まれている
と記載されています。
どの版を底本にしているかがはっきりとしているため、演奏方法で迷いが生じた場合は、最短距離で底本を確認するところまでたどり着けます。それこそ、底本として記載されている版も、底本にする価値のある楽譜だということがわかります。そのため、次回楽譜を選ぶ際、底本となった版を選択肢に含めることが出来ます。

まとめ
と、いうわけで。ふにふにと書いていたら、日付が変わりました。
以上が、楽譜の選び方の答えです。
正直申しますと、選び方①〜⑤の条件をすべて満たす楽譜なんて存在しません。そんな出版物を作ってたら、すぐに廃業するでしょう。それを理解したうえで、何を重視して選ぶかは個人の自由です。
オンラインで何でも買える時代ではありますが、まずは書店・楽譜店に足を運んで実物を見ましょう。パソコンの画面で見るサンプルとは、だいぶ印象が違うと思います。どうしてもオンラインで楽譜を購入したいと思ってても、まずは書店・楽譜店に足を運び・楽譜を選びましょう。そしてISBN番号や出版番号などのデータを把握した上でオンラインで購入することをおすすめします。
楽譜の購入の仕方で迷っている方々の参考に少しでもなれば幸いです。